・本番になると、腕が石になる
本番だけ崩れる子は、
「メンタル」が弱いわけではない。
家では完璧に弾けていた。なのに本番になると、速いパッセージへ入った瞬間、急に腕が石みたいに固まる。その理由は、才能でも根性でもない。
そして多くの人は言う。
「やっぱり、自分はメンタルが弱いんです。」
僕は、この言葉を何度も聞いてきた。
でも正直に言う。「本番で崩れるのは、メンタルが弱いから」——この言葉ほど、演奏家を長く、深く、間違った場所へ連れていく言葉を、僕は他に知らない。
足は動いている。汗もかいている。
なのに、景色だけが変わらない。
本番では、身体そのものが”別モード”に入る
本番とは、「家の延長」ではない。身体そのものが、別モードへ切り替わっている。
呼吸は浅くなる。重心は少し浮く。視野は狭くなる。すると、家では自然にできていた動きが、突然ズレ始める。
普段は脱力できていたのに、本番では腕だけに力が集まる。いつも通り振っているつもりなのに、マレットが音板へ刺さる。速くなった瞬間、肩で押し込み始める。
つまり本番とは、「同じ身体」のようでいて、実はまったく別の環境なのだ。それなのに多くの人は、”家で成功した感覚”を、そのまま本番へ持ち込もうとする。腕が固まるのも、指先の感覚が消えるのも、身体としては自然な反応だ。だからまず必要なのは、「自分は弱い」と責めることではない。
本番に強い子は、「緊張しない人」ではない
結果を出す子も、普通に緊張している。違うのは、「緊張しても崩れにくい身体」を、普段から作っていることだ。
- 心拍数が上がっても重心が浮かない
- 指先の感覚が薄れても、腕全体で支えられる
- 速くなっても肩で押し込まない
- マレットの軌道が崩れない
こうした”壊れにくい構造”を、毎日の練習の中で、静かに育てている。本番での安定感とは、才能ではなく「準備の設計」の差なのだ。
指導現場で、本当にあった話
僕は、この瞬間が好きだ。「才能がない」と思い込んでいた子が、身体の使い方ひとつで、急に自由になっていく。音楽教育の面白さは、ここにある。
真面目な子ほど、本番で崩れやすい
これは皮肉だけど、本当によく起きる。
真面目で努力家の子ほど、本番で崩れる。なぜなら、身体が固まっている状態で、さらに「力で押し切ろう」とするからだ。腕が固まっている。でも速く弾かなければならない。だから、さらに力を入れる。
同時に踏み続けている状態だ。
苦しくなるのは当然だ。
必要なのは、「もっと頑張ること」ではない。どこで身体が止まり、どこで力が詰まり、なぜ音色が崩れているのか——それを、感覚だけではなく、身体と動きの視点から整理することだ。
才能ではなく、「設計」で変える
本番で崩れるのは、才能が足りないからではない。単なる「動作の設計ミス」だ。
設計ミスなら、修正できる。
なぜ速くなると腕が固まるのか。なぜマリンバの音色が痩せるのか。なぜ本番だけ、身体の感覚が消えるのか。どうすれば、”崩れにくい身体”を作れるのか。
これからこのブログでは、精神論ではなく、「身体」と「実践」の視点から、それらを一つずつ整理していく。
音楽は、身体を正しく理解すれば、もっと自由になる。もっと深く響く。そして、もっと楽しくなる。
「なんとなくの練習」を終わらせ、本物の演奏へ進もう。
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この記事を書いた人
石原 慎之助
プロマリンバ奏者・石原慎之助マリンバスクール主宰。桐朋学園大学を首席卒業後、ベルギー政府奨学金を得て留学。ブリュッセル王立音楽院・アントワープ王立音楽院を首席修了。第3回世界マリンバコンクール第2位、TROMP国際音楽コンクール第3位ほか、国内外で多数入賞。ソニー・ミュージックよりメジャーデビュー後、15枚以上のアルバムをリリース。テレビ朝日「関ジャム」、JR東海「そうだ 京都、行こう。」CMなど多数出演。YAMAHAアーティスト。演奏だけでなく、「身体から音を変える指導」をテーマに、国内外で後進の育成を行っている。
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