選曲というのは、告白に似ている。

何を弾くかで、演奏者が何者であるかが見えてしまう。技術の限界も、音楽観も、どれだけ自分と向き合ってきたかも——すべてが、選んだ曲の中に透けて見える。だから選曲は怖い。そして、だからこそ大事だ。

僕がこれまで音大・音高受験の生徒を指導してきた中で、最も多くの時間を費やしてきたのは、テクニックの指導ではなく、この「選曲」と「練習の設計」についてだった。


「弾けそうな曲」を選ぶ罠

受験生がよくやる間違いがある。「自分にちょうど弾けそうな曲」を選ぶことだ。

気持ちはわかる。確実に弾ける曲を選んで、安全に本番を乗り切りたい。でもそれは、受験という場における戦略としては、かなりリスクが高い。

なぜか。審査員は、その楽器のプロだ。毎年何十人もの受験生を聴いてきた耳を持っている。「この子は、この曲を限界まで弾いている」という緊張感は、すぐわかる。余裕のない演奏は、どんなに完璧でも、聴いていて息が詰まる。

「背伸びして届く曲」が、
最も演奏者を輝かせる。

技術的に少し上の曲を選び、その曲を自分のものにしたとき、演奏に「空間」が生まれる。その空間こそが、審査員の耳に残るものだ。


受験に向く曲を選ぶ、3つの軸

軸 01  —  技術的な幅が見えること

速いパッセージ、歌うフレーズ、ダイナミクスの差——これらが一曲の中に揃っているものを選ぶ。「この奏者はこれだけできる」を、3〜5分の演奏で伝えなければならない。

軸 02  —  自分の体に合っていること

手の大きさ、腕の長さ、重心のかけ方。マリンバは楽器の幅が広く、音域によって腕の動きが大きく変わる。技術的に難しくても、自分の体の動きと合わない曲は、本番で崩れやすい。

軸 03  —  暗譜して「歌える」曲であること

楽譜を覚えた、のではなく——目を閉じて、その曲全体を頭の中で歌い通せること。歌えない曲は、本番のプレッシャーの前で必ず迷う。歌える曲は、体がどんな状態でも、ある程度自分を支えてくれる。


練習の設計は、本番から逆算する

本番の日から逆算する。これ以外の方法を、僕は知らない。

たとえば本番が10月だとする。

5月以前

選曲と初期分析

曲を選んで、全体を通して聴き、「どこが問題になるか」を先に想定する。楽器を持つ前に、頭の中で演奏できるようにしておく。

6月末

難所の分解と動作の整理

一番時間をかけるべきはここだ。なぜ難しいのかを動作の視点から整理する。速すぎるのか、腕の動線が非効率なのか、重心が逃げているのか。問題を特定して、修正する。

7月末

難所を「楽に弾ける」状態へ

「なんとか弾ける」ではなく「余裕がある」状態にする。本番では必ず緊張が加わる。余裕のない状態で迎えると、その余裕のなさが一気に崩れになる。

8月末

「歌いながら弾ける」状態へ

全フレーズを声で歌いながら同時に演奏できる状態。歌と演奏が分離している部分が残っていたら、そこがまだ体に入っていない箇所だ。

9月末

本番想定の通し演奏

ホールで弾くイメージで、頭から尾まで止まらず演奏できる。この段階では技術的な修正はほぼしない。体に入っているものを信頼して出す練習だ。


練習の「密度」について、正直に言っておく

受験直前の3ヶ月は、練習時間よりも練習の密度の方が大事だ。

長時間練習しても、頭が疲れていたり、集中が切れていたりする時間は、積み上げにならない。むしろ雑なパターンを体に刷り込む危険がある。

僕が受験生に伝えることがある。「1時間だけ、本気でやれ。残りは体を休めるか、曲を聴くかにしなさい」と。

耳は、楽器を持っていない時間にも育つ。
楽器の前にいる時間だけが、練習ではない。

良い録音をたくさん聴くこと。自分の演奏を録音して聴き返すこと。これを習慣にしている受験生は、驚くほど短期間で伸びる。


ピアノの先生へ——打楽器受験の生徒を持つかもしれない、あなたへ

ピアノの先生が、打楽器を専攻したい生徒の相談を受けることがある。そのとき少し戸惑うのは、自然なことだと思う。楽器が違う。音の出し方が違う。

でも、選曲の考え方や、練習の設計の仕方、暗譜のアプローチ——これらの本質は、驚くほど共通している。「体の使い方が音を作る」という考え方は、鍵盤楽器でも打楽器でも同じだ。

もし教えている生徒が打楽器受験を考えているなら、一度話し合ってみてほしい。その子の音楽的な土台が、すでにあなたの手で作られているはずだから。

受験の準備を、一緒に整えましょう

受験に向けた曲の選び方がわからない。今の練習が本番に間に合うか確認したい。打楽器専攻の生徒を教えていて、相談できる人が欲しい。

受験生本人はもちろん、指導中の先生方のご相談も歓迎しています。オンラインでの無料相談を受け付けています。

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